広報の私はいつも「実際、イデアラボってどういう仕事?」「取引先ってどんなとこ?」と聞かれます。
言いたくても守秘義務で言えないことがほとんどなのですが…
こんなに素敵で立派な方々とお仕事させてもらってますよということを公式に自慢させていただけるインタビューの機会をいただきました。
今回はライオン株式会社 香料科学研究所の大木様、川口様にお話を伺いました!
グループマネジャーの大木さん(左)と研究員で調香師でもある川口さん(右)
※撮影時のみマスクを外しています
川口:ライオン製品のほぼ全ての「香り」や「香味」の開発をする部署にいます。その中で私たちは香りの開発をする上での技術的なサポートをするチームにいまして、 「香りでお客さまが何を感じるか心がどう変化するか」 ということを調べて製品開発に活かすということをやっています。
大木:いろんな案件があるんですが、今はアカデミックな視点でエビデンスを取って製品の価値をお客さまに伝えるための情報開発をしてますね。
大木:知人が主催する交流会で、(イデアラボ代表の)澤井さんが心理学の話をされてたんですよね。私自身もこれまで感性工学に近いような研究をしていたこともあったのですが、どうしてもお客さまの心…みたいなことはわからなくて。
もう少しリアルなことを知るためにはどうしたらいいんだろうと思っていた矢先だったので、「心理学」という分野に足を踏み入れることがお客さまの理解につながるんじゃないかと思ってお声がけさせてもらったのがきっかけですね。
川口:僕はずっと子どもを対象に研究をやってて、子どもの考えてることって本当にわかんなくて(笑)
どうやって調査結果を出すのか不安もあったし、悶々としていた時に大木が部署異動で同じチームになって、「こういう会社があるらしいよ」って紹介してくれてイデアラボさんにお会いしたのがきっかけですね。
大木 : 私は分析化学・界面化学の研究をしてましたね。その中で「お客さまの使い心地」を担当する中で、だんだんこっち(心理学)の世界に…(笑)
川口:僕はもともと調香師・フレーバリストという仕事で、歯磨剤とか洗口剤などのオーラルケア製品の香料を作る仕事をしてました。その中で、香りの感じ方って、他の有効成分の効果と違ってバシッと数値で出るものではないんですよね。
だけど、製品の目標とかお客さまにこう感じてほしい!というのはあって、香料を作ってるんです。それが本当に届いてるのかどうか、従来はアンケート調査を参考に開発を進めるのですが、よりお客さまの感じ方を知る方法をずっと探していました。
そのためには、お客さまの気持ちをもっと深く知ることが大事なのですが、子どもは特に難しくて、幼くなるとどんどん聞く術が無くなっていく…。「美味しかった?」「うん!」みたいな…(笑)
子どもの気持ちの変化を捉えるもっと良い手法は無いのだろうかと考えていた中、心理学には子どもの研究分野もあるんだと知って取り入れていこうとなりました。
大木:川口は以前、子どもの歯みがき動画を見ながら観察するという研究をしたことがあったんですけど。評価をしてみると、サンプルAとBでは「なんか違うよね」っていうところは動画を見て感じられるんですけど、それをどうデータに落とし込んでいったらいいのかっていうところがわからなくて。
その中でイデアラボさんに心理学の「観察法」という手法を使えば、それがちゃんと学術的に評価できると教えてもらって、再チャレンジできたのがよかったです。
川口: 行動を観察してみて、「なんとなく」の情報を数値化するのがすごく難しくて。 なんとなく違いあるよね、って感じているのに「じゃあどう違うの?」を説明するとか、学術的にその差にどのくらい意味があると解釈するのかを示すには、専門知識が必要なんだと思いました。
注:川口さんチームとは歯磨剤を通じた親子コミュニケーションの研究を行いました。その成果の一部は第56回日本味と匂学会で発表されています(詳しくはこちら)。
川口 :開発の目的に応じて検証したいことはテーマによって様々で。今回の研究では子どもの心理を知りたかったのですが、イデアラボさんには心理学の様々な分野の専門家がいて、今回は認知心理と発達心理のそれぞれの専門家からアドバイスをもらうことができて良かったんですよね。
大木:イデアラボさんが、「現場の担当レベル」まで入り込んできてもらえたのもすごくやりやすかったですね。
例えば今回の観察調査をするにあたって”てにをは”のレベルでこういう風にした方がちゃんと測れますよみたいなところまでサポートしてもらって、イデアラボさんに相談してよかったと感じました。
特に未経験分野でちゃんとデータを取ろうと思ったら 「教科書に書いていないようなノウハウ」が必要 で、それを得るのはとても難しいので、そういうところを提供してもらって、成し遂げられたかなと思います
イデアラボ浅野:ビジネス現場の課題というのは、大学の演習でやるような綺麗なデータじゃなくて…観察法の中でもかなり大変な方のデータだと思うんですよね。
だから難しいんですけど、 現場の制約を理解した上で、学術的に許容できる範囲の折衷案を提案することは意識してます。 こちらもここまでは譲れますけど、ここからは譲れないですっていうのをきちんと伝えるようにしてますね。
イデアラボ コンサルティング事業部部長の浅野さ
川口:その点はかなり頼らせていただいたところがあって。イデアラボの担当研究者の浅野さんも児玉さんもこちらの立場を理解してくださって、すごく真摯に取り組んでくださいました。そういうのは企業さんを相手に学術的な心理学をコンサルティングしていることの強みなんだろうなと思いました。
あとは、課題感の共有がすごく早かった印象があります。アドバイスもノウハウレベルまで深く説明してもらったので、手を動かす側の我々からすると、初動が取りやすかったです。
いっぱい論文を紹介してもらって、「このあたりの文献を参考に作っていくといいですよ」っていうアドバイスではなくって、「この論文の、このやり方を抽出するといいですよ」っていう具体的なアドバイスだったので、心理学の論文を読んだことがない我々でもやりやすかったです。
イデアラボ井原:私たちの立場としては、もっと心理学をR&Dに取り入れていただきたいと思っているのですが…。
基礎寄りの研究である以上、すぐに「人のことがわかるようになった!」というような即効性が提供できるものではないですよね。
そのあたりも企業側からすれば投資が難しいのだろうと思っているのですが…おふたりは、どのようなご意見をお持ちですか?
川口:研究員が心理学を学ぶことで、人の心理をデータとして扱う上で基本になる、測定のルールやコツを把握できる様になると思います。
大木:私はもともとケミカル出身ですけど、化学実験で必要な薬液の量を測るとかそういう基礎は叩き込まれているのですが、人の心理をどう理解するのかというところについてはなかなか教育されてきていないものなんですよね。
だから、即効性の前に、人の心理を理解する基礎をしっかり作る必要があるんだろうなと思うんです。
研究所としてもその辺は確かに重要だよねっていう理解がありつつも、具体的にどうしたらいいかわからないということが投資の難しさになっていると個人的には思うんですよね。
イデアラボ井原:心理学の知識を提供する側としては、浅野さんどうですか?
イデアラボ浅野:この間、面接法のセミナーをやったとき、お客さま相談を受ける部署の方から、「カスタマーサービスの仕事などは現場で得られるお客さまの声なわけで、”面接法の調査”として改めて堅苦しくやらなくても、日々の仕事の中でもっとスピード感を持ってデータが取れるのではないか…?」という質問をいただいたんですよね。
確かに、人の心についてってみんな普段から考えてるじゃないですか。
心理学って、たぶん他の科学に比べて親しみがあるんですよね。面接法とか観察法とかも、ある程度「自分でもできるのでは」と思ってしまうし、学術的な知識が無くてもうまいことデータをまとめて考察できる才能がある方っているかもしれないんですよね。
だから、極論ですけど、仮にそういう人がいるとしたら、その人はあんまり方法論を学ばなくてもいいのかもしれない。
でもそれは、属人的なスキルなんですよね。その人がなぜうまく行ったのかを説明するのは難しいし、他の人が体系的に学べない。そういう意味で、やっぱり方法論を多くの人が学ぶことで「全体的な効率」は良くなると思うんですよ。
なので、科学の知見というのは 「うまくやれない一般人もそれを学べばある程度みんなできるようになる」 ということが良いところなんじゃないかと思います。
大木:インタビューとか観察とか、やってみれば何かそれなりのことはできた気になっちゃうってところがあるんですけど…「できちゃった気になる」ところがすごく問題…。
じゃあそこで外しちゃいけないポイントは何なんだろうとか、どういうバイアスに注意すればいいのかとかその辺りはあんまり理解が進んでないと思うんですよ。
だから心理学的なデータの取り方とか見方の基礎を知って意識を変えるだけで全然違うんですよね。
川口:僕もイデアラボさんに相談する前に、子どもの行動観察をやってみて「(サンプルによって反応が)何となく違うのはビデオ見りゃわかるでしょ」っていう気持ちでデータをまとめていました。でも、いざ報告となると、その”なんとなくの差”をなかなか伝えることができなかった。
その後、イデアラボさんとやってみたら、普段私たちが”なんとなく”とらえている変化をエビデンスとして使えるデータにするには、ものすごくたくさんの気をつけるべきこととかノウハウがあって、答えを導くためのステップがあることを知りました。すごく大変だった。たとえば、「観る」行動を具体的に定義したり、データの信頼性を高めるために観察者間で一致率を出したり…。だから相談できてよかったなって。
コロナ禍での案件だったため、実は対面でお会いするのは初めて…!
川口:うーん、僕は個人的にショックだったことがあって。僕が子どもをテーマで研究を始めて長かったので、どうしても結果を出さなきゃと焦ってて、解決の糸口が見えなくなっている時期があったんですよ。
でも浅野さん達とお話をしている中で何をすべきかを一緒に整理していただいたことで、研究のステップを明確にすることができました。
目の前の締め切りも気になってしまって、研究ですべきことを冷静に見れなくなってしまっていたかもしれないと気づかされました。
イデアラボ浅野:そんな(笑)でも、よくお客さんと話してて思うことだけど、イデアラボは正論が言えちゃうんですよ。「こうしなきゃいけませんよ」っていう。だから楽なんですよね。
お客さん側には事情があって、プレッシャーがあって、締切があるけど、こっちはそういうことに縛られて無いからこそ言えてしまうこともあって…。汲み取ろうとはしていますが、そういう意味では当事者としての苦労はわからないまま「本当はこうしなきゃいけないんですよ」って言ってしまってるのかなって思います。
大木:でも、それが結構貴重かなと思うところもあります。外の方の視点で率直なご意見いただく機会ってなかなかなくて、特にアカデミックな研究にしたいというときに企業視点では無いところから言っていただけることはありがたいです。
本当はこうあるべき、をわかった上で折り合いをつけることと、わからないまま妥協するのは全然違うと思ってるので。まずは「こうあるべき」を理解していたいと思ってます。
川口:僕、大木に初めてイデアラボさんに連れて行かれた時の言葉は今でも思い出せるんですけど。
「とりあえず、話聞いてみたら世界変わるかもよ。」って。
僕なりには自分の研究はそれなりに形になってるから別に大丈夫じゃない…?ぐらいの気持ちでいたんですけど、「いや、でも専門家が見たら違う世界が見えるかもしれないから」って恵比寿の駅で言われて…(笑)。
今あの時のことを思い返すと、確かに一緒にお仕事をする前と後では僕が至らなかった部分がはっきりしたし、何がわからなかったのかがわかったなと思います。
だから他の方にも、「まず会ってみたらいいんじゃない」って勧めたいですね。
大木:そんなこと言ったっけ!?(笑)
でも、やっぱり自分の知らない世界をちょっとでもいいから、とりあえず首突っ込んでみるってすごく大事なことかなと私自身のキャリアを考えても思いますね。
川口:アンケートにしても、本当はとても難しいことなんだよなって今はすごく思っていて。
こういうのも相談してみて初めて知ったことなので、お客さまの心をより深く理解するために心理学を取り入れることで見えることがあるということは、本当にみんなに知ってほしいところです。
スカイツリーが見える平井研究所
「もっとお客さまの気持ちを理解するにはどうすればいいのか?」
それは、製品開発に関わる方の共通の課題ではないでしょうか。
そうした中で、解決策のひとつとして異分野の「心理学」を取り入れてくださった大木様、川口様。
過去の苦労話を隠さず共有してくださる誠実さと、専門外の新たな学問に対して謙虚に向き合ってくださる姿勢は、私たちの生活に欠かせない製品をたくさん開発する上で基盤になっている哲学なのかもしれません。
心理学は「ものづくり」それ自体への技術的なノウハウを持ちません。
しかし、製品を使う”人間”はどのように受け取るのか?を考えるためのデータの取り方を知っています。
機能的な価値だけで物が売れる時代ではないからこそ、ものづくりをさらに次の段階へと進めるためにアカデミックな心理学が提供できることがあると信じています。
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